株式会社ツジデザイン

辻のおはなしTsuji’s Blog

辻のおはなしでは、ツジデザインのプロジェクトの進捗や僕達の価値観にまつわるさまざまなコト、
モノについてとりとめなく書いていく小文です。
また、一般の方にわかりにくい用語の解説や家づくりのあれこれなどの知識も、
わかりやすくまとめていきます。

2020.12.31

本のこととか2020

映画とか,本とか

みなさま、今年はそれぞれ未知の1年だったと思います。
在宅ワークで本が読み進んだ方も、そうでない方もさまざま本との出会いがあったことと思います。

今年もラストの投稿は今年読んだ本から特に感慨深かったものをいくつかご紹介したいと思います。
とはいえ、今年はちょっと冊数が少なく…。

2019年のまとめ2018年のまとめ2017年のまとめ はこちら。

■建築

山と谷を楽しむ建築家の人生/後藤連平編

元は学生主催のトークイベントが発端から発行されたという本書。学生たちのもっぱらの関心は、作品の解説ではなく独立後の収入や働き方にあったとのこと。
本書では、大きな組織設計事務所ではなく比較的個人事務所に近い建築家達にキャリアのなかでの「山」と「谷」を率直に聞いていこうという内容。
全員が相応の知名度をもち現に事務所を維持しているので、生存バイアスがかかっている感は拭えないがどんな仕事にもいい時も苦しいときもある。
今年は様々苦しい思いをした方も多いと思うけれど、そんなときこそ笑うしかないなという一冊。

 

■歴史

独ソ戦 絶滅戦争の惨禍/大木毅

多くの日本人にとって、第二次世界大戦での欧州戦はナチスドイツとアメリカイギリス連合軍の戦いだという印象だろう。
しかし、死者数でいえばロシアの2000万人という戦死者数は飛び抜けている。(日本は300万人)
本書は現在最新の資料を元に、独ソ戦を描く。
30年前なら大戦車戦が繰り広げられたはずの東部戦線。
ドイツ、ロシア双方がいかに互いを読み違え、自身を過信し、歴史上稀な収奪戦争から絶滅戦争へと移行していったのか。
行き当たりばったりの目標、戦略的に無意味な都市包囲、安易な兵站、全てが破滅への道筋を示す資料はまさに失敗の本質と言えそうだ。
「戦争は女の顔をしていない」や「失敗の本質」と併せて読みたい。

■自然科学

大英自然史博物館 珍鳥標本盗難事件―なぜ美しい羽は狙われたのか/カーク・ウォレス・ジョンソン

19世紀。ダーウィンの影に隠れた優れた生物学者がいた。アルフレッド・ラッセル・ウォレス。彼はアジアなどで鳥類や昆虫標本を採集し、生物の進化に地理的なデータが必須であることにいち早く気がつく。
21世紀。イギリスのトリングにある自然史博物館で、貴重な鳥類の仮剥製のみが盗難にあうという奇妙な事件が起こる。経済価値など無いと思われる、ただの鳥の羽根。いったい、誰がなんのために?
そして盗難事件の数年前、一人の少年がトラウトサーモンを釣り上げるための毛鉤作りに夢中なっていた。
一見無関係のこの3つの事象がからみあい、19世紀の東南アジアから21世紀のイーベイという時間も空間も飛び越えて真相にたどり着く。
ノンフィクションサスペンス!なんて言葉があるかは知らないが、息もつかせぬ展開とに一気に読み切ってしまった。
こんな世界があるのですね!

くっそ面白かった!

■コミック

せんせいのお人形/藤野よう

コミカライズされた「戦争は女の顔をしていない」と迷いましたが…。あちらはもう充分に知られている気がするので。
Webアプリ上で発表された漫画をまとめたもの。エロ漫画ではない。
すべてを奪われた少女が、誰にも決して奪えないものを得ていく物語。
本を長年ちまちま読んでいると、ある時ふと過去に読んだ本と本とが鎖のように繋がり目の前の霧が晴れるような経験をすることがある。あのカタルシス。
学ぶとはどういうことか、知識を得る喜び。そうしたものに溢れた一冊。残念ながら紙媒体では3巻までで、以降は電子書籍のみとなってしまった模様。
作中に出てくる本のリストや作者が引用した文献もしっかり記載してあるのが、作者がいかに活字に真摯であるかを示しているようで、リストの2次文献も読みたくなる。

■炎

薪を焚く/ラーシュ・ミッティング 浅田知恵訳

炎といっても300億の男ではなく…。
ノルウェイのベストセラー、薪についてフォーカスしたノンフィクション。
原題の「Hel Dev」は直訳で「硬い薪」らしいですが、「信頼のおける人」という意味もあるそうで。
著者の薪に対する行き過ぎた愛情を感じる。
木を切り倒す時期や場所、薪割りの仕方、チェーンソーなどの道具、薪棚の組み方、火付け、燃焼、ストーブの科学etcおそらく太古から連綿と続けられてきた、木を燃やしエネルギーを得る所作に魂の拠り所を求めるのかもしれないなと感じる。
18世紀終わりには増えた人口に供給が追いつかず、欧州の都市近郊の森は禿山になっていたことからもわかるよう、現代ではエネルギーを薪のみに求めることは現実的ではない。しかし、計画的に利用すれば地元産のエネルギー源として、そしてCO2を固定する手段としての山を維持するためにも有意義と思われる。
「里山資本主義」や「エネルギー400年史」も併せて読みたい。

■映画

1917 命をかけた伝令 /サム・メンデス監督

 

正直映画、今年はほとんど見ておらず。
第一次世界大戦の欧州西部戦線。一人のイギリス兵が前線に伝令を伝えるためにひたすら戦場を駆け抜ける。
「ダンケルク」もそうでしたが、禄に時代背景も説明せずストーリーも特にないけど没入感だけはすんごいタイプの映画。
全編ワンカット撮影!と宣伝されていたけれど、ワンカット風に見えるよう編集してあります。工夫満載。
作中、主人公は有刺鉄線で怪我をする。ストーリー上なんの説明もないけれど、この時代はペニシリン発明以前。
また、ひたすら塹壕をめぐるのも、WW1の背景を知っていると絶望的な気分になる。
関係ないけど、映画だとヴァイオレット・エヴァーガーデン作中での「戦争」もおそらくはWW1をモデルにしたもの。
どちらにしても、戦争なんて嫌だね。


こんなところですね。
今年はここ数年でも飛び抜けて本を読まない年でした。映画館は言わずもがな。
なにか気になる本はあれば、ぜひ手にとってみてくださいね。
来年はもっと気軽に本屋も映画館もいけますかね。

それでは、みなさま良いお年を!

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映画とか,本とか

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