株式会社ツジデザイン

辻のおはなしTsuji’s Blog

辻のおはなしでは、ツジデザインのプロジェクトの進捗や僕達の価値観にまつわるさまざまなコト、
モノについてとりとめなく書いていく小文です。
また、一般の方にわかりにくい用語の解説や家づくりのあれこれなどの知識も、
わかりやすくまとめていきます。

2016.12.31

本のこととか

映画とか,本とか

2016年もあとわずか、ここ数年、年末にその年読んだ本などをまとめていくつかご紹介しているので今年も。

■小説
輝ける闇/開高健
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読んだのは池澤夏樹編の日本文学全集。
これは小説である。そのはずなのだが、開高健自身のルポタージュのようにも見える。
開高はベトナム戦争時、朝日新聞社の特派員として現地で取材を重ね、米軍部隊と共に行動していたところを解放戦線側からの機銃掃射に遭う。200名中生存者17名。壮絶な実体験をベースとして、この小説は出来上がっている。
戦場から遠くはなれたサイゴンで怠惰な記者生活を送る主人公、泥のようにねばつくその安寧を彼は自ら捨て去り、危険な向こう側へおもむき、そして件の凄絶な体験につながる。
戦場かそうでないかの差とは、僕達が思っているよりもずっと曖昧なのではないか。

■社会
中東から社会が崩れる/高橋和夫
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近年の中東での動き、特にシリアからイラク、トルコとサウジについておおまかにではあるが概要を解説した本書。ISはイラクの鬼子であること、トルコのイラン憎しのあまりISへの支援、サウジのムハンマド副皇太子によるOPEC掌握等、ざっくりした流れはこれで理解できるだろう。著者は今後、中東がステイツ(国家社会)からチーフダム(部族社会)へ変革することを予言する。これについては他の地政学者にも似た意見を持つ人が多いようだ。もう少し中東については追いかけてみたい。

■テクノロジー
ザ・セカンドマシン・エイジ/エリック・ブリニョルフソン
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今年はさかんに「シンギュラリティ」が語られた年でもありました。
2040年頃を境にAIが人の知能を超え、その技術的特異点をシンギュラリティと呼ぶそうです。著者はこのシンギュラリティとインターネット、ナノテクノロジーの三点を持って、セカンドマシンエイジ(第二次産業革命)となると主張しています。
はたしてシンギュラリティは人類を更なる栄光の道へ導くのか、はたまは人類破滅への福音のラッパとなるのか。
僕自身は超AIと人類は当面共存していくのではないかと楽観視していますが、さて。

■写真
わたしの土地から大地へ/セバスチャン・サルガド
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常に人間を見つめ続ける写真家、サルガドの回顧録。政治活動に入れあげ国を追われ、フランスに渡り安定した職を棄て写真家となったサルガド。ブラジルの鉱山で働く男たち、アフリカの人々、ルワンダやソマリアでの惨状を経て、人間に繋がる動物達を撮し、自らをダーウィンの弟子であると公言する。西洋で無神論者であることを公言することが、社会的なリスクになりうることも承知のうえで。
彼の眼差しは、常に人間に向かっている。打ちひしがれ、絶望し、それでも希望を感じ取るような写真の数々を見るたびに、私も力が沸いてくるようだ。
ヴィム・ヴェンダースとサルガドの息子ジュリアーノ合作監督のドキュメンタリー映画「セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター」も合わせて見てほしい。邦題は最低のセンスだと思うが‥。

■コミック
戦国妖狐、スピリットサークル/水上悟志
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同時完結ということで、この2作。
水上悟志は最も信頼しているストーリーテラーの1人。
両作とも長いお話をダレることないテンポでしっかり描ききる。このスピーディーなテンポは初期作の惑星のさみだれのころからで、読む側を飽きさせない。
また直接の言及はないもののスターシステム的な存在を匂わせるのも通好みかも。
次回作にも期待。

■映像
この世界の片隅に。
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今年11月から公開されている、こうの史代原作、片渕須直監督のアニメーション作品。
昭和19年、広島から呉に嫁いだ18歳のすず。次第に乏しくなる物資も、いつものほほんと笑いながらなんとかやりくりしていく。そんなすずにも戦局の悪化は否応なくふりかかり、怪我をしたすずは8月6日地元広島のお祭りに帰ることに決めるが‥。
すでにあちこちで言及されているように、圧倒的なリサーチによる情報量に気圧される。その日の天気はもちろん、広島商店街の店主の人物特定まで行ったそうだ。
「神は細部に宿る」そんな言葉を思い出さざるを得ない。
けして声高にイデオロギーを唱えない、これは戦争映画ではなく、一人の女性が喪失し、また手に入れていく物語。
誰しも、人生において節目になるような映画や小説、音楽などがあると思います。これはそういう作品。ひとりでも多くに見て欲しい映画。

 

というわけで、今年もいろいろありました。
この世界の片隅にが衝撃すぎて、グズグズとひきずったまま年越ししようと思います。
それではみなさま、良いお年を!

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映画とか,本とか

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